1. ことばの構造、文化の構造

1. ことばの構造、文化の構造

本書の中で著者が文化と称するものは「ある人間集団の特有の、親から子へ、祖先から子孫へと学習により伝承されていく、行動および思考様式上の固有の型」である。つまり文化とは、人間の行動を支配する諸原理の中から,本能的で生得的なものをのぞいた残りの、伝承性の強い社会的強制(慣習)の部分をさす概念だと考えられる。

文化の単位をなしている個々の項目とは、一つ一つが他の項目から独立した,それ自体で完結した存在ではなく、他のさまざまな項目との間で対立をしながら,相対的に価値が決まる。人が異文化に接する際、個々の文化要素を統括する全体の構造がつかめることは稀であり、多くの場合自分が出会う一部,または特殊な実例を一般的に拡大してしまう傾向がある。またこの一般化は必ず自分の文化の構造に従って行われる。例えば外国語のある特定の一語に対して,辞書などで多くの日本語を羅列的に対応させると、そのことばを安心して使える範囲は広がるが,同時に不適当な一般化の危険の範囲も広がる。これらの混乱をさけるためには、ある単語がその言語の中で、他のことばや,それと近縁類似の言葉と密接な相互対立関係にあることを構造的に把握すべきである。また外国語のある単語の使用法が自国語の特定のことばのそれとある場合に合致するからといって、自国語のその単語の他の使い方までこれが当てはまると考えてはならない。

文化は,当の本人が自覚していない無数の細かい習慣の形式から成立している。比較的目につきやすいあらわな文化のみならず、なかなか気づきにくい隠れた文化とよばれる部分に気づくことこそ,異文化理解の鍵であり、外国語を学習することの重要な意義のひとつである。学校での外国語学習においては、ことばが世界をいかに違った角度、方法で切り取るものかを学生に理解することのできるよう,うながすことに意義がある。(RM)