多言語現象研究会第38回研究会報告

2010年2月20日
多言語現象研究会第38回研究会@関西学院大学梅田校舎

ウー・ワイシェン「外国人住民と「にほんごを やさしく すること」―公的機関等における取り組みで用いられている「やさしい日本語」への分析を通じて―」

発表概要
「やさしい日本語」とは、「日本語に不慣れな外国人に情報を発信する際、難解な単語を分かりやすい単語に言い換えたり、漢字にルビを振ったり、複雑な文の構造を簡単にしたりする、(阪神淡路大震災以降に考案された)日本語の表現法である。」「多言語化が進みつつある現在の日本社会において、「やさしい日本語」は多言語化を補完するものとして位置づけたい」と発表者は主張する。発表者は本研究の研究目的を、「やさしい日本語」の実態把握と考え、より良い「やさしい日本語」の作成を目指し、地方自治体の言語サービスに対応できるよう,意見を提供する。
 発表内容は、主に弘前大学人文学部社会言語学研究室の作った「『やさしい日本語』の作り方」に準拠し、それを用いて大阪府羽曳野市、東京都福生市、大阪箕面市などが刊行したガイドブックやウェブサイトを分析するものであった。
 それらの分析により、文字レベルにおいてはひらがな、カタカナ、漢字やローマ字が用いられており、漢字にルビづけがされていることが判明した。語彙レベルにおいては日本語能力試験3級の出題基準までの語彙を目安とされるのだが、1級や2級、そして出題基準外の語彙を用いる場合もあった。文章レベルにおいては,かな書きが中心となり、二重否定の使用を控えているのが分かる。

質疑
1. 日本語能力試験の出題基準を語彙選択の基準とすれば、留学生のみが想定される「やさしい日本語」が対象となるではないだろうか。また、日本語能力試験の出題基準に含まれていない語彙が生活に多用される場合も少なくないため、それについてどう考えるのか。
2. 第二言語習得論(SLA)から見ると、「やさしい日本語」は時代の遅れである、という意見もあった。それは、「やさしい日本語」のように情報を制限するやり方より、もともとの情報をそのままに提示し、学習者がどれぐらい分かるのかを測る方が今の流行であるためである。

疑問点
1.「やさしい日本語」の守備範囲は、地方自治体の外国人住民向けの生活ガイドに限られるのであろうか?
2.「やさしい日本語」は、日本語に不慣れな人間の「読み」をしやすくするために留まるだけではなく、「書き」、「聞き」、「話し」などの言語能力に応用されるのも可能か。
(H.C.)