序言(第1版)

 フランス語第2版をみると,序言にはavant propos de la 1re edition(第1版序言)とavant propos de la 2e edition(第2版序言)があるが,日本語版は「第1版序言」のみを訳出している。

 メイエは序言において,本書の執筆意図を確認する。それは現在のヨーロッパの言語状況を記述することであり,ナショナリストの求める言語問題の要求を記述することではない。学者の使命とは,実際の行動に出るのではなく,現実に関わる人々の啓蒙にあるという。言語計画が実務家の営為であるとすれば,言語政策は学者の営みであり,メイエの述べる啓蒙に通じるものがある。

 メイエは言語を次のように規定する。「言語はこれを用いる社会が作るものである。」Les langues sont ce que le font les societe qui les emploient. (vii)言語と社会の関連はメイエの師であるソシュールが確認したものであるが,メイエはソシュールとは異なる方向に言語と社会の関係を探求した。

 メイエはどのようにして言語の統一が失われたのか,どのようにして共通語が生まれたのかを提示しようとの意図を示す。前者は印欧語から発生したインド・ヨーロッパ語族の展開を歴史的に検証することを意味し,後者もやはり言語の歴史的形成に関わる。