第二章 1-4 ピアジェの心理学説における子どものことばと思考の問題

1.ピアジェの心理学説の概要
 ピアジェの研究は,子どものことばと思考に関するもので,子どもの発達理論と世界観に関する学説に新時代を形成し,歴史的意義をもっている。ピアジェは,はじめてかれにより創りだされ,科学に導入された,子どものことばと思考の臨床的研究方法により,子どもの論理の特質を全く新しい断面から,きわめて大胆に,深く広く体系的に研究した。すなわち,子どもとは決して小さな大人ではない。子どもの知能は,決して小さな大人の知能ではない。ピアジェが子どもの思考について,事実から基礎づけ,明らかにしたこの簡単な心理の奥には,発達の観念がかくれている。

2.自閉的思考について 
 自閉的思考や自己中心的思想が無意識的であるとの考え方は,ピアジェの思想の基礎そのもののなかにある。なぜなら,ピアジェによれば,自己中心的思想とは自分の目的や課題を意識しない思想であり,無意識的な衝動を満足させる思想だからである。思想や自己中心とは,思考発達のその後の段階がすべてその上に構築される最初の基礎的段階であり,最も早くから発生する思考は,ピアジェによれば,ある種の白昼夢的思想であり,自閉的思考を支配する満足の原理は,理知的思考の論理を支配する現実性の原理に先行するわけではない。

3.児童の自己中心性の根拠
 児童における自己中心性の根拠は,子どもにおけることばの機能を明らかにしようとしたピアジェの研究でにある。この研究で,子どもの会話は自己中心的なことばと社会化されたことばとの二つの大きなグループに分けることが可能だとの結論に達した。「この(自己中心的)ことばは,何よりも子どもが自分自身についてのみ語っているが故に,だが主としては,かれが話し相手の観点に立とうと試みることをしないが故に,自己中心的と呼ばれる」とピアジェがは述べる。

4.自己中心的ことばと自己中心的思考
 幼児のことばは大部分が自己中心的である。それは,伝達の目的をはたさず,コミュニケーションの機能を遂行するものではない。子どもの自己中心的ことばは,子どもの活動の副産物,子どもの思考の自己中心的性格のあらわれのように見える。子どもの思考の最初の形式は,ある種の白昼夢的想像である。そして,それは子どもの自己中心的ことばのなかにあらわれる。(CY)