第8章 言語学:言語組織の記述その他を行う科学(言語学者でない人のための付録)

第8章 言語学:言語組織の記述その他を行う科学(言語学者でない人のための付録)

言語学は正式の学問としては,特にアメリカの学界に関するかぎり,非常に新しい学問分野である。アメリ言語学会は1924年になってはじめて設立された。世界で一番古い言語学会はパリにあり,1864年に設立された。

 その後に言語心理学が生まれ,最新の分野は言語社会学である。これは,言語学社会学社会心理学との橋わたしを行う専門家を養成する学際的分野である。

 多くの言語学者の訓練されてきた基礎分野は記述言語学もしくは共時言語学である。この分野は,ある時期のある場所における言語の体系的記述に焦点をあわせている。これは決定的に「はなしことば」を強調し,書きことばを自然言語あるいは自然のはなしからの派生であり,ずれていると想定している。大抵の言語学者は言語の音体系と文法体系を,言語の記述という彼らの目的にとって,もっとも基本的と考える。

 言語社会学および,他の言語使用の学際的研究がそれ以外の規則性を発見しようとするのは,随意変異(free variation)のあるものにおいて,すなわち話し手の機敏さ,あるいは情緒的状態における差異や,話題,役割関係,コミュニケーションの背景あるいは人間間の目的における差異と共起しうる変異においてである。

 言語学者社会学者のより大きなグループが共通の話題を見出したのは,ラングとパロール間の伝統的に厳密な区別が再検討されるようになり,それらの間の相互関係が追求されるようになった,比較的最近のことにすぎない。

 言語学の他の部門としては,史的(通時)言語学(historical linguistics)と方言学(dialectology),もしくは言語地理学,方言地理学が挙げられる。

付録1 言語社会学が最近まで発達しなかった若干の理由
 これには,この分野が境界領域をなす二つの分野,すなわち言語学と社会科学の従来の関心事の差異があげられる。言語社会学は,言語学と社会科学の両分野が,共通の関心事を効果的に説明するために協力が必要だということを認識したことから生まれた産物である。

付録2 言語維持と言語取替え
 2言語併存なしの2言語使用は,3つの下位分野にわけられる。
 (1) 日常的言語使用のどういう時どういう場所でどの言語を用いているかをつきと
めることを目的とする
(2) 言語の維持や取替えに関連する,心理的,社会的,文化的過程の記述
(3) 言語に対する行動(behavior toward language)の記述 

付録3 (言語学者のための付録) チョムスキー言語学の言語社会学的考察
 生成変形言語学(GTL)は人間言語の深層構造,内在的言語能力に焦点を当てる一方で,社会言語学(SOL)は特定のことば網,ことば共同体の言語目録の特定の変種の表面的特徴間における差異に焦点を当てている。これらに類似するのは非ウォーフ主義的観点である。

生成意味論(GS)は生得性(innateness),言語社会学(SOL)は社会化(socialization)を強
調することを特徴としている。さらにSOLはり広い行動的視点とより大きい規模の分析に得意とする。言語社会学は単に言語変種の機能に対してだけでなく,それらの構造的特徴に対しても,積極的な目的をもった実体としての人間と社会の理解を助ける。このことは,その言語学そのものへの広がりゆく影響以上に,SOLのより重要な貢献といえよう。(CY)