2008年度第14回FDフォーラム第4分科会報告(2009.3.1)

「教養・文化教育としての外国語教育」

http://www.consortium.or.jp/contents_detail.php?frmId=1122


 本報告の目的は,危機的状況に直面する英語以外の外国語教育を「教養・文化教育としての外国語教育」という観点より,その意義を検討し,英語との対比のもとに異なる役割を改めて確認することであり,報告者はフランス語教育を担当しているが,個別言語の授業について教授法上の改善策を提示することではない。

 報告ではまず,外国語教育を教育経済学の観点より分析し,投資としての教育と消費としての教育の類型化を試みる。外国語学習には,個人がそれに投資することによりその後の職業生活においてその資源を回収できるタイプと,学習それ自体が消費行動としての意義を持つタイプがあり,教員,学習者それぞれが言語教育をどのように位置づけるのか戦略的判断が欠かせない。英語教育は前者に位置づけることができるが,それ以外の言語教育についてはどのように位置づけることが妥当なのか,またどのような戦略が生き残りに必要であるかを検討したい。

 次に「教養・文化」を教え,学ぶことの意義を検討する。言語教育の授業で「文化」を教えることは何を意味するのか。外国語教育の授業が目標言語の使われている国の地理や歴史の知識を伝達したり,観光旅行に役立つような情報の提供だけを目的としないのであれば,言語教育を通じて「異文化」を体験するとは何を意味するだろうか。言語教育における「文化」とは単一で固定的に提示しうるものではなく,社会や個人の構築する複数の表象に他ならない。とすれば,学習者が目標言語の文化について抱く表象と,目標文化の「現実」という表象のずれに目覚めることは,重要な「異文化」経験となるだろう。

 最後に外国語教育の多様性を確保する方策として,ヨーロッパの言語教育政策の進める複言語主義教育を検討する。これは,多言語教育の制度を設けることだけでは学習者が特定の言語に集中しやすく,言語教育の多様性を確保しがたいことから,言語教育そのものについての意識を高めることをめざし,多言語教育の意義を訴える,メタ認知的教育である。このような方策は日本において多様な外国語教育を実現する上で有効であるか,また具体的にはどのような方法が可能かを検討したい。



参考文献
Conseil de l'Europe (2007), De la diversité linguistique à l'éducation plurilingue, Guide pour l'élaboration des politiques linguistiques éducatives en Europe, Version intégrale, Strasbourg : division des Politiques linguistiques.
小塩隆士(2003)『教育を経済学で考える』日本評論社

教育を経済学で考える

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