第五章 諸言語間の関係への働きかけ(ステータス)

第五章 諸言語間の関係への働きかけ(ステータス)
 多言語状況の中で,国家はある言語を振興し,別の言語が享受していたステータスを取り消し,すべての言語を対等に尊重させることがある。つまり,国内に存在する言語のステータスや社会的機能を管理することができるのだ。この章はそのような介入例をのべる。

 タンザニアでは媒介言語であったスワヒリ語が振興された。それが容易であったのは,スワヒリ語は文字表記がもともと行われていた言語であったこと,植民地時代の含意がないこと,振興によって特定のエスニック・グループが優遇されないこと,そしてもちろん大多数が理解できる言語であったからである。インドネシアでは,他言語状況をマレー語で管理しようという試みが行われた。ステータスだけでなく,単語などのコーパスにも国家が介入し,整備を行った。これが可能であったのは,言語に介入してはいけないという神話を打ち破ったためである。スイスでは言語の平和が実現している。異民族の統一のために共通言語を作るのではなく,連邦レベルで三つの作業語を使用し,州レベルでも様々な言語にたいする取り組みを行うの多言語状況に対して特殊な運営がされている。スイスでは,多数言語集団(ドイツ語話者)が多数者のようにふるまわず,自分たちの言語を他者に押しつけなかったためこの平和が築かれた。

 フランスはヨーロッパ連合でフランス語の地位を確立させようとするだけでなく,フランコフォニーで世界的にフランス語を広めようという方針を取っている。しかしフランスのフランス語政策はしばしばその整合性を問われる。決定機関が多様あり,シンクタンクがないことに加えて,ヨーロッパに向けての多言語主義の擁護と,自国の国境内部での地域言語擁護への不熱心さが見られるからだ。しかし,あらゆるところでの「フランス語擁護」という意味では一貫性があるともいえる。

 フランスの植民地であったマグレブ諸国では,言語をフランス語から「アラブ化」しようという試みが行われた。しかし,ベルベル語や口語アラビア語の問題とからみあい,成功していない。マグレブ諸国はいまだアラビア語のステータスを自国で確定するまでに至ってはいないのである (NH)