第6章 ことばの適応 – 分化と統合

 世界の各言語の適応能力は異なっている。また、各言語共同体の発達段階にも差がある。需要に適応している言語の主たる条件は次の3つである。

1) 言葉の表示が、話し手の意志伝達の目的に合致している時。
2) ある社会または言語集団に、言葉が統一した形で受け入れられる時。
3) 言葉の分化の程度が高く、さまざまな機能に対応している時。
これらの条件を満たさない言語は、抽象概念を表す語彙の欠如や専門領域の語彙の欠乏という問題を抱えている。

 各言語の語彙は常に更新されなければならない。社会のコミュニケーションにおける新しい需要に常に対応するために、他の言語からの語彙の借用が不可欠である。借用される語は主に名詞で、受け手の言語に適切な語がない名称である。借用が起こる理由の一つは、借用語の持つ威信や時代の流行(社会心理的理由)、もう一つは、言語の効率の向上および維持(社会経済的理由)である。2言語の接触(特に隣接した地域の諸言語や、宗主国と植民地の言語の接触)により借用は起こる。多くの場合、借用語の流れは一方向的である。

 語彙の借用には、統合と分化というプロセスがある。統合とは、さまざまな専門家集団から一般の人々への語彙の提供による一般化である。分化とは、各分野における語彙の専門化である。専門語と共通語は部分的に重なるが、多くは共通語の枠外にある。語彙の借用と同様に、専門語の発達は、継続的な分化と統合によってもたらされる。

 適応度の低い言語は、より適応度の高い言語を手本にした改善を必要とする。こうした改善により、言語の競争力は高まる。適応能力の低い言語の共同体は、ある外国語を補助的に使わざるを得ないか、より適応能力を持つ言語を自分の言語と完全に取り替えてしまう。 

 以上の事から、言語適応は、言語行為の問題でもあり、言語体系全体の問題でもあるということが分かる。つまり、人間の生活は、社会と環境との交渉によって、言語形成に影響しており、かつまた、言語は言語使用者の環境に対する振る舞いに影響を及ぼしている。(U.K)