第5章 語族 familles de langue

 初版で本章は第二章となっている。これは,第2版が第一章と,第二章を加筆し,初版の第一章を二つに分割したためである。

 また第五章冒頭にはアラビア語の形成についての段落があったが,これは第2版では削除されている。これはおそらく,アラビア語の形成がラテン語より後代であったため,歴史的事象の前後関係に整合性を持たせたことからであろう。またメイエの時代のヨーロッパに存在する言語という視座からみた場合,アラビア語は必ずしもそれに当てはまらないという判断があったからかもしれない。21世紀のヨーロッパでアラビア語が占めている地位など,メイエは想像だにすることはなかった。

 ある一つの語族からさまざまな言語が分化発展するという言語観について,メイエは主にフランス語,スペイン語,イタリア語などの属しているロマンス語族とスラブ語族,ゲルマン語族を取り上げるが,ロマンス語族がラテン語を共通の祖語としたことに比べるならば,スラブ部語族,ゲルマン語族にはラテン語に匹敵する共通の言語は残存しておらず,推測に任せるのみである。

 語族という概念は,「ある時代に語られた一共通語と,もっと後のある時代にみられるいくつかの言語との間に,継続性の存することを確認する」(p. 77)ことに他ならない。そしてこの発展あるいは変化は単純に歴史的時間が決定的役割を担うものではない。メイエによれば,住民間の混血や生活形態の変化こそが言語変化の重要な要因である。異民族との接触により異言語との接触が進むことや大きな社会的変化こそ言語に変化をもたらすのである。そして言語変化にはそれが著しい時代もあれば,乏しい時代もある。これは民族接触や社会的変化が言語変化の要因であるならば,変化の進度が一様でないのは当然のこととなる。