斉田智里(2008),「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)による日本人大学生英語力診断の試みー英語教育達成目標へのCEFR適用可能性の一検討」

斉田智里(2008),「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)による日本人大学生英語力診断の試みー英語教育達成目標へのCEFR適用可能性の一検討」,Jacet Journal,47,pp.127-140.

 著者は,大学英語教育において達成目標導入の動きがあることを背景に,CEFRによるレベル別診断を日本人大学生に対して実施し,これによりCEFRの独自性と普遍性を検証する。DIALANGを活用したテストの結果は,日本人大学一年生の英語能力をCEFRレベルで測定すると,聞き取りがA1,読解がA2,書記能力がA2,構文能力(文法的知識?)がB1. 語彙がA2からB1のレベルにあることが判明し,そこから推測すると,大学卒業の時点ではどの能力もB1に到達目標を定めることが可能ではないかと,提言する。

 またオンラインテストと平行して,自己評価も実施したが,これは能力記述文が英語で記述してあるため,その理解にも問題があり,さらに能力記述文が日常生活における外国語使用を前提としているため,日本人学生には適切ではないとの指摘が行われている。

 しかしそもそもヨーロッパの言語教育は,具体的で現実的な人的交流に基づき,人的交流の促進を目的とするものである。日常生活に密接した言語活動が行われている現実から出発している。その上に開発された「ヨーロッパ言語共通参照枠」なのだから,日本のように日常生活が日本語のみで充足してしまう社会言語的環境を前提としていない。

 文脈の問題をどのように考慮に入れるのか,あるいは入れないのか,欧米での外国語教育の成果を「導入する」にはさらなる考察が必要である。